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Costume

衣裳|大野慶人の 「睡蓮」  大野悦子 

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ダンス作品を構成する重要な要素「衣装」を、様々な角度から紹介するコーナー
 
今回は、本年1月惜しくも急逝した大野慶人が「睡蓮」(1987)で使った背広をご紹介。大野一雄舞踏研究所で衣裳整理をする大野悦子を訪ねて、解説していただきました。
 
出演:大野悦子
 
 

大野慶人の「睡蓮」
 
大野一雄舞踏研究所では、毎年梅雨に入る前、稽古場にある衣裳や小道具達を虫干しして、状態をチェックする。今年は1月に大野慶人さんが亡くなり、なかなか色々なことが思うように進まない。外は雨だが、まだ片付けが終わらない研究所に、大野悦子さんを訪ねた。研究所は大野家の住まいの隣にある。
「睡蓮」は、大野慶人が初めて大野一雄を演出した作品だ。大野一雄の作品史では、「ラ・アルヘンチーナ頌」「わたしのお母さん」「死海」「睡蓮」「花鳥風月」と続く。「死海」までが土方巽の演出だ。いや、正確に言えば、「死海」までは、大野慶人が自ら三顧の礼をもって迎えた、師・土方巽の演出だ。「睡蓮」の時、土方巽は既になく、大野慶人自身が演出し、共演した。大野慶人と土方巽と大野一雄の間には、言い尽くせない、時代の物語がある。
「睡蓮」は、1987年シュトゥットガルトの世界演劇祭で初演された。これは実に不満な出来だった。世界でも指折りの大フェスティバルのオーブニングガラに招かれたことは光栄の至りだが、同じガラで上演される早池峰神楽と舞台を共有しなければならない制約の中で、準備の時間も短くたいへんだった。それにしても、舞踏と神楽というプログラムは、80年代のヨーロッパのフェスティバルらしい。
思うに、「睡蓮」という作品が揺るぎなくできあがったのは、短い時を経て、翌88年のニューヨーク、アジア・ソサエティでの公演だった。この年の初め、大野慶人は胃がんで胃を亜全摘している。「ニューヨークにはもう行けない、親父(一雄のこと)と行って、ひとりでやってきてくれ」と言われたのを覚えている。体調は幸いに上向き、就労ビザもギリギリおりて、ニューヨーク公演は実現した。
「睡蓮」は大野一雄作品の中で、数多く再演された作品だ。「ラ・アルヘンチーナ頌」のような極度に緊張する舞台に比べ、ゆったりとした自然さがあり、ヘンな言い方だが、なんとなく楽だった。大野慶人が、大野一雄をしっかりと支える構造が、同時に劇的な感動を生む構成に繋がっていたからだろう。大佛次郎のグレーの背広は、「睡蓮」の最初から最後まで、大野慶人と共にずっと舞台にいた。だからすべてを知っているように見える。(TM)

  
 
 
大野悦子
大野慶人夫人。大野一雄・慶人の衣裳を担当。公演衣裳となった自身の服も多い。
 
大野慶人(1938~2020)
大野一雄の次男として生まれ、中学生の時より一雄にモダンダンスを習う。1959年、大野一雄「老人と海」でデビュー。その一ヶ月後に、舞踏の嚆矢とされる土方巽「禁色」に少年役で出演し、以後60年代の多くの土方作品に参加する。16年の中断期間を経て、85年に舞台復帰。86年に土方巽が逝去してからは、大野一雄の全作品の演出を担う。大野一雄舞踏研究所の所長を継ぎ、一雄の逝去後も世界中で公演やワークショップを行った。
 
「睡蓮」(1987)
土方巽の逝去後、大野慶人が大野一雄を演出した初の作品。クロード・モネの絵画〈睡蓮〉を着想源に、一雄と慶人のソロとデュオで構成される。1987年6月シュトゥットガルト世界演劇祭にて初演の後、同年8月に土方巽追悼企画「病める舞姫」(銀座セゾン劇場)にて日本初演。改変を加えながら、97年まで87回の上演を重ねた。

 
 

 

出演:大野悦子
協力:大野一雄舞踏研究所
 
企画:溝端俊夫、飯名尚人
撮影・編集:飯名尚人
音楽:星野紗月
字幕翻訳:本田 舞
 
© NPO Dance Archive Network, 2020

 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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