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本棚|ティム・ウォーカー「SHOOT FOR THE MOON」
ティム・ウォーカーと大野慶人のフォトセッションは、2016年に東京青山の写真スタジオで行われた。ティムのチームは、事前に大野慶人の稽古場を訪れ、あるだけの衣装や小道具をみて、慶人の踊りも見てから、とにかく現場にそれらすべてを持ち込んで、その場で作ろうということになった。いろいろ新しい衣装も用意していたようだったが、結果的には、大野慶人が作品で使用してきた衣装を使うことになった。撮影の目的は2016年11月発売のブリティッシュ版『VOGUE』の特集ページのためだった。
2018年1月、ティムから慶人にShoot for the Moonについて手紙が届いた。2019年にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で大規模な個展の開催を予定している、それに併せて写真集を出版するので、写真を掲載したいこと、そしてそこに数行の言葉を寄せてほしいという内容だった。慶人は短いテキストを寄せた。
大野一雄は、
僕が生まれて3日後に戦争に行った。
僕が10歳の時に一緒に生活するようになった。
僕が12歳の時から大野一雄にモダンダンスを習うようになった。これが僕の舞踏の始まりとなった。
ティム・ウォーカーの撮る大野慶人の肖像は、慶人自身が描いた「自画像」のように見える。慶人が添えた数行の言葉は写真の自画像の語る肉声に聞こえる。ティム・ウォーカーと大野慶人のセッションは、写真家が舞踏家を見る視線と、舞踏家が自分自身を見る視線が交錯した、すばらしい出会いの瞬間だったと思う。
ティム・ウォーカー
1970年イングランドに生まれる。ロンドンのコンデ・ナスト図書館で、セシル・ビートンアーカイヴに携わり写真に興味を持つ。エクセター芸術大学卒業時、Independent Photographer賞三位入賞。ニューヨークに移り、25歳の時に初めて『VOGUE』誌のファッションストーリーを撮影して後、ヴォーグブリティッシュ版、イタリア版、アメリカ版の各誌、またW magazine、LOVE Magazineで作品を発表する。2010年サマセット・ハウス(ロンドン)で『Story Teller』展開催。2013年に老女たちの肖像を描く共作写真集『The Granny Alphabet』を出版。2012年に英国王立写真協会名誉会員になる。作品は、ヴィクトリア&アルバート博物館、ナショナル・ポートレート・ギャラリーにパーマネント・コレクションとして収蔵されている。
本棚|Shoot for the Moon
撮影・編集 飯名尚人
Special thanks Tim Walker Alex Pasley-Tyler 株式会社青幻舎 大野一雄舞踏研究所