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Rehearsal
リハーサル|川口隆夫の実験室
川口隆夫
1996年から2008年まで、ダムタイプに参加。並行して 2000年よりソロ活動を開始。演劇・ダンス・映像・美術をまたぎ、パフォーマンスの幅広い可能性を探求している。近年は、「ザ・シック・ダンサー」、「大野一雄について」等、舞踏についてのパフォーマンス作品を制作し、世界各地で高い評価を受けている。
http://www.kawaguchitakao.com/
舞踏になること
テキスト:リム・ハオニェン
私の個人的見解では-身体的、心理的、情動的な表現形式についての若干の知識から考えるに過ぎないが、舞踏はそれ自身を多くの層に包み隠した畏るべき身体芸術表現である。その層は多岐にわたる。身体表現の層、感情に訴える層、精神物理的表明の層等々だ。演劇的な (或いは反演劇的とも言えようが) メイクの手法は言うまでもなく、典型的に白く塗った歪んだ表情もあれば、はっとするような銀塗りの体があり、こっけいさ、グロテスクさ、時に崇高さまでも演じるための様式美に満ちた衣装もあれば、はかなさから俗悪さまでを描き出すまったくの裸体もある。しかし舞踏を発見するために、これらの表現的な深層をあげつらうことは、川口隆夫の舞踏に対する果敢な取り組みとその内奥への旅とは真逆のことだ。
かつてダムタイプ作品に参加していた頃の川口が示した身体的な探求と詩的な身体性は誰もが認めるところだ。彼の身体実験が動きの表現において、静けさ、緩慢さに漂着したときに、川口の中に舞踏に向かう「種子」が撒かれたのではないかと、私には思える。クアラルンプールで舞踏についての会議がもたれた際の彼の短いパフォーマンスを今も記憶している。2014年のことだ。私は彼の名前が舞踏に結びついていることに驚いた。川口の作品が舞踏という枠組みや哲学のもとに語られることは思ってもみなかった。
しかしその時作品を見て、思い当たった。モダンとコンテンポラリーダンスの速度と荒々しさの観念に抗うかのように、懸命にゆっくりと動こうとする挑戦は政治的なものだ。現在盛んに行われていることに冷水を浴びせる政治的な挑発は、実は土方巽の政治性に酷似している。土方は、詩的で情緒的な表現で知られる大野一雄と並んで、つねに物議を醸す舞踏の創始者である。速度に抗うという政治性において、私は川口隆夫が舞踏の重層性に向き合うことをはじめ、ついには大野一雄の代表作をコピーすると言うことに行き着いたのではないかと思っている。真似るには、大野一雄の映像を何時間も辛抱強く見続けなければならなかった。そして真似た形を川口は舞踏の層として身にまとったのである。
最初のきっかけは大野の中に見たものを真似て再現することだったが、その動きとパフォーマンスを切り取って示すことから、作品の場面にある大野一雄の心理状態に共感し対話するように、川口は変化していったのではないかと私には思える。素材としての身体造形を超えて、大野一雄は感情表現の中で何を感じているのか、ある作品の中でどんな感情的状態にあったのか?川口は動きを単にコピーすると言うことよりもはるかに複合的な層を作り出したのだ。動きを真似るという長い旅の果てに、川口は舞踏の哲学と政治性と知性を体現し、さらに多彩な層を作り出そうとしているのだ。
リン・ハオニェン
マレーシア出身のインディペンダントなダンスドラマトゥルク、プロデューサー、パフォ
ーマンス作家。ダニエル・コック、クィック・スィブン、ピチェ・クランチェン、アムリ
タなどの作品にドラマトゥルクとして参加してきた。2016年アジア・ドラマトゥルク・ネ
ットワーク(AND)を設立し、シンガポール、横浜などでシンポジウムを開催、アジアにお
けるドラマトゥルクとパフォーマン作家の交流を推進している。
リハーサル|川口隆夫の実験室
出演 川口隆夫
協力 田辺知美 立石裕美
撮影・編集 飯名尚人