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Opening

オープニング|川口隆夫「大野一雄について」

 
川口隆夫「大野一雄について」より〈タンゴ・鳥〉
 
 
「大野一雄について」(2013)
伝説的舞踏家・大野一雄について、一方ではその動きを記録映像から「完全コピー」することで忠実に再現し、他方ではその世界観の大胆な再解釈を試みる話題作。2013年初演以来、世界38都市で上演を重ね、2016年のニューヨーク公演はベッシー賞にノミネートされた。
http://www.kawaguchitakao.com/ohnokazuo/index.html
 
〈タンゴ・鳥〉
大野一雄「ラ・アルヘンチーナ頌」(1977)の中の一曲。初演時はタンゴ楽団の生演奏に乗せて踊った。作品内で最も舞踊的な場面で、大野一雄が「自らの最高の踊り」と語ったというエピソードがある。
 
 

「なることについて」
テキスト:アンジェラ・コンケ
 
 川口隆夫は舞踏ダンサーではない。大野一雄の公演を見たこともないし、彼と踊ったこともない。また、必ずしも白塗りや舞踏特有の衣装を好んではいないかもしれない。しかしそれにもかかわらず、川口隆夫ほど精緻に舞踏する人を、見ることはまれである。それはおそらく、川口隆夫が外側から内側に向かったからだろう。外と内があるのだ。彼は、舞踏コミュニティーと、そして舞踏の芸術形式と魂に対してはアウトサイダーだった。だから、大野一雄のアーカイヴを何時間もひたすら見て、見て、見続けた。動きと身振りを一つ一つ取り出し、忍耐強く苦心を重ねて真似ていった。多くのダンススタイルが今日このような方法で学ばれている。しかし舞踏という極めて内的傾向の強いダンスを、外側からコピーするとことによって、如何に学ぶことができようか。目は当てにはならない、表層を追うだけだから。心はさらに当てにならない、習慣と思考パターンに依存しているから。それは、身体が、身体によってのみ知ることができることだ。だから、川口隆夫は、動きから動きをたぐり、身振りから身振りを追い、自らの魂を脇に置いて、もう一人の、別の自身になろうとしたのだ。
 川口は自分の内側から空間を作り出し、自らを虚しくし、身体を空の器にした。なにもない白紙状態ではないが、やったことのない動きにいつでも反応できる有機体だ。これは、古典的な舞踏の訓練と言えるかもしれない。内面に身を投じていくのだ。またあるいは、完全な自己滅却行為とみることもできよう。自分の身体がまるごと放棄され、他人の身体が毛穴から骨の髄まで住みつくのだ。元の体は不在の輪郭のみを残している。動きをたやすく手に入れたと感じるたびに、隆夫はまだ十分でないことを知っている。その過程は妥協のないもので、作業に完了はない。
 しかし、この妥協のない、集中と鋭敏さを要するプロセスにおいて、動きは正確さをましていく。他者の身体の中で甦るとき、動きは新たな生命を得る。舞踏が内面性をテーマとする一方、何かになることを強調するのは、おそらくこのような意味においてだろう。自分自身、即ち現実の自分と一体となること、完全に自我を離れた自分とひとつになること、自分ではなく、一時的に宙づりになった自分によって目前に置かれている身体とひとつになる。それは、自分が何なのか、そして他の何であり得るのかを一度に発見することなのだ。
 川口隆夫が大野一雄を踊るとき、ひとはそれを大野一雄だと思う。巨匠の名作をこれほど精緻に、見事に描ききった例はまれである。川口隆夫が大野一雄を踊るとき、ひとはオリジナルより本物である動きが、如何にしてコピーのコピーから生まれてくるのかを見るだろう。これほどアーカイヴの生きた活用を体現する例を知らない。川口隆夫が大野一雄を踊るとき、ひとは自分自身と向き合うことになるかもしれない。舞踏とは、人の内面を見つめ、そこに見るものを受入れ、そしてそれ以上の何かになろうとすることへの誘いなのだから。
 
 
アンジェラ・コンケ
メルボルンのDancehouse の芸術監督兼CEOを2011年から2020年まで務める。現在は、インディペンダントなダンスキュレーター、コンサルタントとして活動している。AND+(Asia Network for Dance)のメンバーであり、Dancehouse Diaryの共同編集者である。メルボルン大学博士課程在籍。川口隆夫の「大野一雄について」を2017年Asiatopaで、また「Touch of the Other」を2020年に、それぞれメルボルンで上演し、Dancehouse Diaryにインタビュー記事を掲載した。

 

 
 
川口隆夫(1962~)
1996年から2008年まで、ダムタイプに参加。並行して 2000年よりソロ活動を開始。演劇・ダンス・映像・美術をまたぎ、パフォーマンスの幅広い可能性を探求している。近年は、「ザ・シック・ダンサー」、「大野一雄について」等、舞踏についてのパフォーマンス作品を制作し、世界各地で高い評価を受けている。
http://www.kawaguchitakao.com/
 
星野紗月
バロック以前から現代に至るまで、あらゆる音楽の手法を駆使した即興演奏を専門とするパリ在住の若手ピアニスト。パリ国立高等音楽院ピアノ即興科に首席で入学し、フランスのジェローム・セドゥ=パテ財団と初の女性ピアニストとして契約。自身の演奏活動と並行して、フランス各地の映画祭に毎年出演し、サイレント映画の伴奏を手がけるほか、音楽とアートとの新しい表現の可能性を探究している。
https://www.satsukihoshino.com/
 


 
川口隆夫「大野一雄について」
コンセプト・演出・出演:川口隆夫
振付:土方巽、大野一雄
衣裳:北村教子
 
撮影・編集:飯名尚人
音楽:星野紗月
グラフィック:北風総貴
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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