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Interview
インタビュー|安藤三子「土方巽と鶏」
安藤 哲子 さんのこと
このインタビューは、2015年6月7日に東京の安藤氏のご自宅で収録された。 Re-Butoooh での公開については、ご家族にお伝えするのみで、直接にご報告申し上げることができなかったが、安藤氏とご家族に心より感謝を表したい。インタビューではたいへん闊達に歯切れ良く、土方巽のエピソードなど様々のことをお話しいただいた。
安藤氏の舞踊歴について詳細な情報が得られてないが、インタビュー時にご提供いただいた公演プログラムや既出の書籍などから、1935年から舞踊活動を始めたことが伺われる。1950年代には安藤三子舞踊団として舞台公演、テレビ番組などで作品を発表している。現代舞踊協会に所属していたが、安藤のダンスは「ジャズダンス」「ジャズバレエ」と呼ばれた。「ジャズは、ちゃんとした芸術家が使うものではないと当時言われていた」と安藤自身がインタビューでも述べている。多くの安藤作品で、ジャズピアニスト、作曲家で芸大ピアノ科主任教授である宅孝二が音楽を担当していた。また、「鴉」(1954)では、大野一雄がゲスト出演し、岡本太郎が舞台美術を制作した。さらに、矢田茂(ダン矢田ダンサーズ)が出演するなどショーダンスとの関わりを思わせる作品もあり、活動の幅が広く、独特である。また多くの後進を育てた。土方とデュオを踊るパートナーであった図師明子(小原明子)は、1961年に美術家小原久雄とブラジルに移住、ユバ農場にバレエ団を設立し現在に至っている。他に、「白鯨」(1986)では、田中泯もキャストに見られる。
土方巽は1953年に安藤三子舞踊団に入門し、 土方九日生 の名前で数々の作品に出演した。1954年に安藤が大野一雄を招き創作した「鴉」は、土方と大野が直接出会うきっかけとなった思われる。
略歴
1928年に生まれる。1935年、高田せい子に師事する。安藤哲子ユニークバレエ団を主宰するほか、国立音楽大学大学院オペラ科講師、石坂ミュージカル・エンタープライズ舞踊監督も歴任した。主な作品に、
安藤 三子 舞踊団として
1951年 現代舞踏コンクール第1位、文部科学大臣賞受賞「シルバー・ソナタ」
1953年 現代舞踏コンクール第1位、文部科学大臣賞受賞「破調とそのヴァリエーション」
1954年 Dancing Heelsとして「鴉」「スリル・ジャンクション」等上演。土方巽、大野一雄、大野慶人が出演、岡本太郎が美術を担当している。
安藤哲子ユニークバレエ団として
1970年 「モダンダンス・漫画の世界」
1974年 「ケッチョール街」「PATCH-UP! 」「死への式次第」
1977年 「未来のイヴ」
1980年 「今宵」「アラン・ポーとノクターン作品3番」
1981年 「愛・暴力・アナーキー」「クール・パッケージNo.7」
1983年 「白鯨」 (初演) 「作品5番」
1986年 「クール・パッケージNo.7」 「白鯨」(再演)
1986年2月21日新宿文化センター安藤哲子舞踊公演「白鯨」プログラムより抜粋。
土方はこの1ヶ月前、1986年1月21日に逝去した。
(前略)
私はしきりに土方巽のことをおもった。
土方は私の稽古場に飛び込んできた時から、並はずれて狂気じみた繊細さで私をおどろかせた。どなりとばされながら覚えたテクニックを、舌なめずりするように一心にこわしていた。現代舞踊に一石も二石も投げつけて大きな仕事をした彼の魂の繊細さを私はひそかに愛した。今日の「白鯨」だけは土方に見て欲しかった。だがあまりにも早く、1月の寒風を裂いて彼は逝った。
無我夢中で踊り続けてきた私の50周年の中で、もしかして「白鯨」は私をふたたび身の毛もよだつような道の海に連れ出してしまうかも知れない。
へそと原爆
「へそと原爆」は、1961年10月21日と22日の二日間にわたって、有楽町の旧蚕糸会館にあったヴィディオホールで、他の5本の16ミリ映画とひとつの舞台作品とともに、「ジャズ映画実験室」と銘打った催しで初公開された。「ジャズ映画実験室」は、いわばモダンジャズをテーマにした実験映画祭である。他の5本の映画とは、「☓(バツ」(作・演出:谷川俊太郎/共同演出:武満徹)、「IRON」(賛助作品、作・撮影:岡本愛彦)、「夜が来る」(作:石原慎太郎)、「TOOBLUE」(作・演出:白坂依志夫、音楽:武満徹)、「猫学 キャットロジー」(作・演出:寺山修司)、ひとつの舞台作品とは、「アートブレイキイ」(構成・詩:寺山修司、振付:土方巽)である。それぞれの映画音楽を前田憲男、八木正生らのジャズマンが担当している。残念ながら、「へそと原爆」以外の五本は現在消息がわからない。「へそと原爆」全編は、DVD「大野慶人 花と鳥」(有限会社かんた)に所収されていて、見ることができる。
「ジャズ映画実験室」に伴って刊行されているプログラム冊子「JEUNE」(ジューヌ)に掲載されている「臍とA-Bomb(原爆)」のクレジットと作品解説を以下に引用する。
昭和35年10月21 日、22日 於ヴィディオホール
第一部モダンジャズをテーマにした実験映画
細江英公作品 臍とA-Bomb(原爆)
作・演出 細江英公
詩 山本太郎
音楽 前田憲男
撮影 東方明毅
語り手 水島弘
出演 土方巽 大野慶人 漁夫4名他
フィルム提供 富士写真フイルム株式会社
協賛 千葉県大原町観光協会
作品について
「へそ」というのは、人間の本質的な生=性につながる生命の起源として解釈し、「原爆」とは、一切を破壊するものとしてとりあげました。
物語はかなり抽象的ですが、その表現する意味はシムボリックなものです。アダムとイヴがエデンの園でリンゴを食ったそのときから、人間の歴史がはじまり、二人がエデン楽園から追放される宣告を受けたときに、原爆(ネガで焼付けたフィルム)が落下します。それからが人間の歴史です。この部分は説明すると長くなるので省略しますが、一口に云えば、男と女の歴史です。争いがあり、世界は変わっても、そこには必ず人間がいます。創世記以後の漂白された世界が次第にまともな映像に立ち直ったとき、ある平和な子供の楽園に一人の大人が現われて、いたずらに取った子供のへそから原爆が爆発してしまいます。世界は再び荒涼とした人間以前の地上に舞いもどってしまう=という筋書きです。要するにわたしが云いたいことは、現実の世界でも伝説の世界でもなんでもなくやったことが、取り返しのつかない大事を引き起こすことがあるということです。いつ第三の原爆が、いやベガドン爆弾が落とされるかわからない危機にある現代にこそ、生命は大切にされなければならないと思います。わたしはモダンジャズと奇妙な映像の中に黒いユーモアを描きたいと思います。
細江英公
安藤三子「土方巽と鶏」
聞き手 溝端俊夫
撮影・編集 飯名尚人
映像提供 「へそと原爆」細江英公