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オープニング|川村美紀子 土方 巽「疱瘡譚」より
川村美紀子|Mikiko Kawamura
1990年生まれ。16歳よりダンスを始め、2011年より本格的に作品を発表。新人賞を総なめにし、日本ダンス界の新鋭として話題を呼ぶ。国内外で発表を重ね、16年にはフランス国立ダンスセンターおよびCCN/Rを拠点に、パリ、リヨン、グルノーブル、マルセイユ、ル・アーブルにて半年間の滞在制作を行う。劇場にとどまらず、屋外やライブイベントでのパフォーマンス、映像・音楽制作、アクセサリー製作など、活動を多彩に展開。2019年より南房総へ移住。
敬意と嫉妬の三角関係
テキスト:飯名尚人
「疱瘡譚」はグロテスクでありつつも耽美的で、日本人の身体、文化を追求しながらもマニエリスムが全体を漂っているように感じる。ジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」の奇妙さ、デタラメさにも似た濃密な美しさ。そしてどこを切ってもなぜか面白い、可笑しい。大野一雄はお洒落で、土方巽は粋だ。どちらも諧謔性があって、そして真剣なのだ。川村美紀子さんが再現した「疱瘡譚」は、土方巽の「四季のための二十七晩」(1972年・アートシアター新宿文化)の中で上演された作品のひとつで、オリジナルの舞台映像は大内田圭弥監督によって撮影されたものが残っている。
2021年、溝端俊夫さんの呼びかけにより、<舞踏>と<東京の地下>をテーマとしたオンラインフェスティバル「Tokyo Real Underground」が実施され、舞踏を現代的に捉え直す試みとして数多くの野心的な作品が映像化され配信された。川口隆夫さんが再現した大野一雄、松岡大さんが再現した大野慶人がすでに作品として存在していたので、新たに川村美紀子さんによる土方巽の再現をする企画が立ち上がった。それが「三」と「自宅で舞踏ホログラム」の2つの企画で、Re-Butoooh(リブトー)第1弾、第2弾、そして今回の第3弾のオープニングの踊りが、その一部である。
川口隆夫さんが大野一雄の踊りをコピーした「大野一雄について」は、残された大野一雄の舞台記録映像から踊りをコピーして再現した作品であった。どのシーンも土方が演出として関わったもので、川口さんは土方演出によるシーンのみをコピーの対象とした。大野一雄の踊りは、その作品の要素を残し再現性を確保しつつも、細かなところは即興的にアレンジされているため、一見するとすべて即興で踊っていると感じさせるが、再演の度に動きのモチーフは繰り返し再現されていた。踊りのイメージと動きのモチーフは強度に繋がっており、細かいところは違っても踊りのメッセージは揺るぎがないのだった。大野一雄が創作の際に使ったメモは、再演の際にも繰り返し使われたのだろう。このことは同作品で別年代の記録映像を見比べていくと発見できた。
松岡 大さんの試み「土方三章」は、大野慶人が土方巽から伝授された踊りを、その大野慶人から直接振り付けの指導を受けて踊り継ぐ方法であった。「土方三章」の踊りには型があり、こうでなければならないという美学と意志が感じられる。松岡さんもその型をひとつも壊さぬよう丁寧に踊っているように見えた。山海塾の舞踏手としても活躍する松岡さんの白塗りは、大野慶人の真っ白な白塗りの再現を成功させた。大野慶人は、自分の白塗りは胎児のイメージでこれから生まれる存在なんだ、と話してくれたことがあった。大野一雄「死海」の創作メモには、「不詳の存在者(大野慶人)」「投入された光は塩か 塩柱か」と書かれている。大野慶人は土方の話をよくした。酔っ払って、土方の真似、といって踊ってくれたこともあったし、大野一雄、土方巽の白塗りの意図の違いを話してくれたこともあった。大野慶人のその口ぶりは、土方への敬意と愛着が感じられた。
ウィリアム・クラインが1961年に東京で撮影した「ダンス・ハプニング」では、大野一雄、慶人、土方の三人が同じ画面に写っている。こんな風にいろいろなことを統合していくと、「敬意と嫉妬の三角関係」というのがこの三人の関係のように思えた。敬意だけでなく嫉妬も含まれている点は、また次回どこかで書ければと思う。
同じ空間にこの三人が登場したらという空想も加わり、「三」という映像作品になった。Tokyo Real Undergroundで実施した「三」に関するオンライントークでは、オリジナルの記録映像も少し見ることができる。川口隆夫さん、松岡大さん、川村美紀子さんの三人によるパフォーマンスもある不思議なトークイベントとなった。
Tokyo Real Underground 「三」トーク
Tokyo Real Underground
http://www.tokyorealunderground.net/
土方 巽「疱瘡譚」より
出演 川村美紀子
衣装 北村教子
撮影・編集 飯名尚人 吉田尚弘 河村衣里
舞台監督 呂師(砂組)
照明 森 規幸(balance,inc.DESIGN)
音響 國府田典明
協力 公益財団法人セゾン文化財団